この地方は今まで災害に見舞われることがあまり多くはなかったせいか、わりと誰もがどこかで安心していてる部分がある。
そして、こんな日は、大きな被害が出ないことを祈りながらひたすら読書するに限る。
でも、去年想定外の大惨事になって全県民が驚き、悲しみに沈んだことを忘れてはいけない。
そして、こんな日は、大きな被害が出ないことを祈りながらひたすら読書するに限る。
中島京子さん 花桃実桃
なぜか随分時間がかかってしまった。
おもしろくなかったということではないので、念のため。
父が遺したアパートを相続した茜(43歳シングル)は勤めていた会社を辞め、大家としてそのアパートの一室に住むことにした。
そのアパートに住むちょっと風変わりな人たちの暮らしぶりが淡々と描かれていく。
いつもウクレレを抱えて哀しげな曲を奏でる青年、中学生を筆頭に3人の子をもつシングルファーザー、なぜか整形を繰り返す女性、クロアチアから来た詩人、父の愛人や幽霊等々、住人と茜とのかかわりがおもしろい。
中島京子さんは 小さいおうち しか読んでない気がするのだけど、こんなにクスッと笑えるような文章書く人だったんだと、ちょっと意外だった。
特に大きな事件が起こるわけでもない。
大きなことと言えば、やっぱり茜と尾木君のことだろうか。
ことわざ好きの尾木君と元ヤンの茜の会話も笑えたし、茜の気持ち、尾木君に対してだけでなく大家としての気持ちが、気がつかないほどゆっくりと変わっていくのもほっこりして微笑ましい。
最後のページの締めくくりの文章がとっても素敵で心にしみた。
以下、原文そのまま引用させていただきました。
オリジナルカクテルに客が行列を作るかどうかは未来形で、彼女と彼が今後どうなるかも未来形、すなわち仮定と推測のうちにしか語られない。けれども茜が現時点で手にした幸福を、それが花であれ実であれ地下茎であれ、大事にしようと思っていることは確かで、そこから推測できる未来といえば、おのずと想像できる明るさを提示するようにも思われる。ただし、こればかりはなんとも言えない。酒も人生も、馬鹿みたいに甘くはないのだから。 (単行本 p.261)

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